同居人がにんじん1キロと袋いっぱいのマッシュルームを抱えて帰宅。
市場を見つけたらしく超ご機嫌。「かわいかったから買うてきてん♪」
そんなわけで今晩は伍長サラダ(要は野菜を切っただけ)。
残りは君が調理するんやで。
「美しき青きドナウ」のおっさん合唱バージョンを、恩師から賜る。
3拍子とかワルツとかお上品なものはちょっと・・・と渋ってると、
「絶対君のツボ」にはまるものだからと押し付けられる。
「天使の歌声」もびっくりな野太い声。どんどん早まるテンポ。
さながらビアホールの大合唱かメーデーの労働歌。なんだこりゃ。
ワルツは貴族だけのものではないのね。
あの二人ならどうだろう。
「何ふさいでんだ。まだデカブツのことか」
ステッキンが黙って頷く。
「3課は人を救う課ですよ。伍長さん一人も救えないなんて」
「どんなに周りが手出ししたところで、どうしようもないこともある。
大事なのは、向こうが求めてきたときにいつでも手を貸してやることじゃないか?」
「……でも」
「考えすぎるなよ。週末の夜なんだから」
そう言うと、オレルドはステッキンを抱えてゆっくりとステップを踏みはじめた。
6拍子なのか3拍子なのかわからない微妙な足音がしばらく続いた後、
静かな低い声が加わった。
バーデン・ミュンヘン・ザクセン…
一方が必死になって追いかけていた足音が、しだいに同じリズムを刻みだす。3拍子だ。
ポーへン・トゥーリン・ギーゼン・ドレスデン
1つ…2つ…3つ…4つ目でターン。
なぜ地名なのかと尋ねかけて、
ステッキンは彼の歌が聴けたものではないことを思い出す。
かわりに別の地名を投げかける。
キエフ・カラチ・バルト・カタフ
「やるじゃないか、共和国か」
「特技は共和国語です」
「対決するか」
「負けませんよ」
アーヘン・ブレーメン・プロイセン・ケルン
バイカル・アムール・ミアス・ルーガ
ステップは次第に大きく、早くなっていく。
ベルリン・ベーメン・ジーデン・ライン
ロストフ・オデッサ・モギレフ・クリミア
「笑顔が出てきたな?」
「オレルドさんが余計なこと考えさせ、るからっ、っと、そんなに振り回さないで!」
南瓜世界の庶民の生活にレコードなんてないだろうと勝手に想定して、
オレルドは歌うたえなかったはずと思い起こして、
ステッキンは体にくる揺れだけで音楽を感じられるはずとでっち上げ。
固有名詞の羅列って意外にオツな音楽だと自己満足。
ちなみにオレルドが一枚上手です。韻踏合組合~
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