大きなモニターで自分の入力した文字を見るのは恥ずかしいよ。
いやネット上に文章出してる時点で十分恥ずかしいのだけどorz。
カウプランと兵器局、軍の関係のゆがみを妄想したのと、
気が遠くなるほど長い廊下でのファースト・コンタクトを無理やり合わせてみる。
廊下での出会いは好きなシチュエーション。
注意書き、らしいものはないのですが、あえて言うなら…
カウプランに関する情報は・・・まだ単行本化してませんね。
でもこれ読んだところであんまりネタバレでもないと思います。
なにせ妄想度120パーセントなので。
あと、自分の「勝手なキャラ設定」で固めてます。
付け加えると文字が多いです。相変わらず。
この次はさっくりあったかくなりそうなの書きたいです。
寝巻き姿のステッキンとストーブとか。オウムと伍長とか。
mind your name
癇に障るような足音が廊下をこだまする。
音の元は自分の中途半端な高さのヒール靴。機能性をまるで無視した開かないスカートと首に巻かれたネクタイが自分を縛り付ける。不快なことこのうえない。すれ違う人間が振り返る。
無遠慮な視線には慣れている。
夏は「ヒマワリより大きい」女として。冬は「クリスマスツリーのてっぺんの星より大きい」女として。ただし、ここ(陸情)で受けるものだけは別だ。
平民出身で若くして技術開発部の主任、兵器局の内紛の申し子。ここの連中にとって自分は格好のネタだ。軍の頭脳である情報部は、体力勝負のほかの部隊の連中とは毛色がぜんぜん違う。真偽に関係なく国内外の情報を掌握することが基本任務だから噂も立派な情報なわけで、連中の探るような視線は身体に染み付いたものといってもいい。
だが、頭で理解していても直面すると結構キツイ。
初めて出た課長会議ではラインベルカのおばちゃんに「情報部の男は美味いか」とカウンターパンチを頂戴したし(その後は何かと言い寄られて困ってる)、ロッカーじゃオンナノコたちがいっせいにおしゃべりをやめてこちらを見る。今では開発部の連中以外とはなるべく関わらないというのが、ここでの自分内ルールになっている。
戦時中から軍人が嫌いだ。
与えられた兵器のメカニズムをロクに理解しないで無理な注文をつけた挙句、壊して戻ってくる。ひどいときには死体というおまけつきで。下っ端にうらみはない。上からの命令通りに動いて傷ついて帰ってくるのだから。罪なのは命令する側の、仕官だ。よりにもよって自分が仕官だらけの機関に配属されるとは。
戦況が硬直し始めた停戦1年前、兵器局では組織の再編が構想された。
帝國の科学研究は中心人物工学博士カウプランの亡命によって空中分解し、医学・化学・工学の三つが予算争奪ゲームをはじめた。こうした状況を憂慮した工学系を中心とする一派は、分裂を収集すべく新たな方針と組織を構想した。
開明派によって編み出されたこの改革は、技術省なる省庁を作って国から独自の予算枠を獲得しようとするものだった。帝國が戦争に明け暮れている間にネビュロでは科学技術が目覚しく進歩した。軍事では何とか同程度のレベルにあったが、それ以外の技術開発において帝國はネビュロ内で最低だったことを憂慮して、彼らは基盤研究・応用研究・教育の部門を設け、経歴偏重主義の壁に埋もれがちだった若い技官を養成し、軍事技術だけが肥大した状態からの方向転換を目論見たのだ。
一番おいしい思いをしたのは、育成の対象となった技官なりたての人間だ。停戦前にカウプランへと転属がかかったかと思うと、研究環境を与えられ、ネビュロの技術交換会へ帝國若手研究者として出席を許された。
こうした新しい動きに経歴偏重主義の甘い汁を吸ってきた兵器局の上層部が大きく反発した。彼らは開明派の思想が反国家的であるという理由を盾に、軍と手を組んで潰しにかかった。無論、開明派に帝国主義そのものを破壊しようという思想はない。兵器開発を工学技術の一部門と位置づけて、歪な技術力を正し、バランスの取れた状態で運用していくよう、高度な専門技術を持つ人間を官僚に登用しようとしただけである。専門官僚制と帝国主義は同時に成立しうる。この国は戦争という名の麻薬依存症なのだろうか。残念ながら一技官にすぎない自分には、兵器局上層部の判断の根拠になっているものまでは見通せない。
反国家的という濡れ衣を着せられた開明派は、あわてて養成中の研究者を放出して、人材を温存した。工学系のある者は山岳地帯のトンネル工事にシールド車のエンジニアとして。またある者は、国境付近の鉄道の軌道整備に。どれも末端中の末端の仕事だ。
その一人だった自分が配備されたのが、陸軍情報部だ。
いってみれば開明派は敵陣の中枢に人質を差し出して、身の潔白を訴えたのだ。ちょうど軍内部でも国民向けプロパガンダ部隊の設立を含む組織の大改正プランが作られており、ハト派出身の技官登用はお互いに好都合だったのだろう。技術会議でも認められた人間だから部隊を統率するに不足はないということで、あたしの人事はすんなり承認されたらしい。こうして長い帝國陸軍史でも珍しい平民出身の若手女性技官が、軍の技術部門の主任として配属されることになった。おかげで「枕営業」でポストを得たとか何とかのうわさがかまびすしい。残念なことに戦場育ちで舌が肥えてるもんで、粗野な食い物(B級グルメ)しか口に合わない。エリートと貴族は勘弁だ。
開発部主任とは、兵器局・軍・政府の、技術と情報面双方のパイプ役だ。
整備員の養成、武器の使用許可願や報告書の承認。新型機導入要請時には各省庁への意見書の作成、ロールアウト前のテストと使用法の指導、エトセトラ・エトセトラ。小間使いと大して変わらない。何より面倒なのは、課長会議へ出席が義務付けられていることだ。発言権のない形式だけの会議に出席することほど気が重いものはない。ツナギで出たらコネリーのおっさんから「作業着で出るやつがいるか」と一喝された。形式主義者め。今日もこれから会議だ。カーキ色を身にまとって。
「あの、ウェブナー技術中尉。今、よろしいでしょうか」
廊下の向こうの方から声がする。顔を向けると、ひよっこい士官が緊張した顔でまっすぐに自分を見ている。左腕にはカボチャと鋏の部隊章。ダンナのところの子(3課)か。そういやあそこはそろってタヌキ顔だったよな。隊員ってボスに似るんだろうか。ひよっこいのが口を開く。
「ウチの一号車のステアリング、もう少し重くしたいんです。やり方を教えていただけませんか?日常的な調整くらい自分でできるようになりたいんです。お願いします」
自分で、なおす?仕官が?
一瞬耳を疑った。
ダンナもおもしろい子を拾ってきたものだ。確か懲罰房に入れられてて卒業が遅れたとかで、人事会議で論議になった子だっけ。
「いいよ。たいていハンガーにいるから適当に捕まえな」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。では」
パン、と勢いよく足をそろえて敬礼すると、ひよっこはくるりと引き返した。
「アンタ、名前は?」
ひよっこはまたくるりと体をこちらに向けて「失礼しました。自分は3課のマーチス准尉です」と言うと、さっきと同じように「パン・敬礼・くるり」を繰り返して去っていく。
バネ仕掛けの人形みたいだ。たぶん本人のキャラクターからにじみ出るものだろう。
3課、マーチス准尉。
ふーん。
それは、ここで初めて覚えた士官の名前になった。
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お付き合いありがとうございました。
どうしてウェブナーがあんなヒヨッコ贔屓なのか
(ほかにも選択肢あるだろうに)を考えたらこんなことに。
3課はタヌキ、1課はキツネ、2課はオオカミとそれぞれ系統がありますね。
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